[飛行機のマスク着用義務]賛成派も反対派もまずは読んでくれ。
※法律の専門家ではない著者が独自に調べて解釈した内容であり必ずしも正解ではありません。
- 刑法と民法を理解してる?
- 運送約款は基本的に民法である。
- マスク着用は民法上義務とすることができる。
- 具体例を見てみる
- 身体的ハンデを持つ方が軒並み逮捕される。
- じゃあなんで今マスク着用義務じゃないの?
- 結論:お互いが寄り添いあった安全で快適な空の旅を
飛行機のマスク着用問題について、義務である、義務じゃない、法的根拠がない。などなど、知識を有していないままの意見が見受けられます。
元旅客担当としてこのことを運送約款や航空法に基づいて独自の解釈を説明します。
マスク着用賛成派反対派に関わらず一度見ていただければと思います。
刑法と民法を理解してる?
まず根本としてここを履き違えている人が多い。
そもそも刑法は
"犯罪に関する総則規定および個別の犯罪の成立要件やこれに対する刑罰を定めた日本の法律。"
であって、違反に対して刑事的処罰が発生する、いわゆる違法行為です。
一方で民法は
"日本における、私法の一般法について定めた法律。"
であって、違反に対して訴えられることで損害賠償ならびに判決による刑事的処罰が発生する違法行為です。
つまりどういうことかというと。
コンビニでおにぎりを買いました。
そこで店員とトラブルになりました。
この時、店員を殴ってしまった場合=刑法
殴ってはいないが、店員に暴言を吐いて訴えられた=民法
おおまかにこういった理解で十分だと思います。
大切なのは、刑法は犯罪であること、一方で民法が裁判所の判決によって犯罪と認められること。
ということです。
では、運送約款とは刑法・民法のどちらになるのでしょうか。
運送約款は基本的に民法である。
そもそも運送約款とは、運送契約をまとめたものになります。
従って、「契約」である運送約款は
民法632条「請負」
請負は、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。
を基礎としている法律になります。
ただし、航空に関しては別途「航空法」というものが含まれており、このうち
安全阻害行為等の禁止等を定めた73条の3と73条の4
については旅客にも適応される条文とされています。
つまり、航空における運送約款には、基本的には民法ですが、航空法適用範囲においては刑法の対象となります。
ここまでを簡単にまとめるとこのような体系になります。
次に本題です。
マスク着用は義務にできるの?できないの?どっちなの?
マスク着用は民法上義務とすることができる。
ここが大切な点です。
刑法・民法の違いを説明しました。世間のニュースでは義務にできるできない。が曖昧ですが、ここにおいて「義務」というのは二つの視点でみられるべきです。つまり
1.刑法上の「義務」
2.民法上の「義務」
この視点です。
具体例を見てみる
例えば、東京から沖縄に行きたいので飛行機に乗るとします。
そこであなたは、飛行機に乗るために航空会社と運送約款に則った契約を結びます
(運送約款に同意しますか?みたいなのありますよね)
その代償としてあなたはお金を払い、航空会社は飛行機を飛ばします。
ここで、「飛行機に乗る上でマスクを着用してください」 という条件が追加されるとします。
この条件は刑法・民法どちらに該当するのでしょうか。
正解は、民法です。
なぜなら、「マスクを着用してください。」という条件は航空会社からお客さんに対して行われているものであって、航空会社とあなたは法律上、運送約款でしか結ばれていません。ということは、「マスク着用をしてください」というのは民法上の取り扱いでしかないのです。
そこで民法上の義務という考えが出てきます。
「義務」とは「従うべきとされること」という意味ですから、「民法上の義務」はすなわち、民法に従うべきこと。という意味になります。
つまり、この時要求される「マスク着用という民法上の義務」においてあなたは従うべきという理解ができるのです。
ではその民法=運送約款にはどのように記述されているのか。
この個所を細かくして見ましょう。
運送約款には「法令、又は官公署の「要求」に従うために必要な場合、運送の拒否を行うことができる。」
と書いてあります。
官公署とは
”国、地方公共団体およびその他の公の団体の諸機関の総称”
を意味しますから、国からの「感染拡大防止のためマスクを着用してください。」という「要求」に従うために、運送の拒否を行うことができる。となっているのです。
従って、
あなたは運送約款に従うべき立場にある。
運送約款には、マスク着用という国の要求に従うために運送を拒否できる。
つまり、マスク着用を義務として要求することができる。
これが、マスク着用を民法上義務とすることができる理由です。
え?なんか難しいし、複雑なんだけど・・・・???
きっとそういう感想を持つと思います。
では、なぜ一律刑法上の義務とできないのか。
復習ですが、刑法は犯罪であること、一方で民法が裁判所の判決によって犯罪と認められること。という違いがあります。
もし刑法上の義務としてしまった場合
何が起こるのでしょうか?
答えは簡単です。リアルマスク警察が誕生します。
つまり、刑法上、マスク着用義務とした場合、
マスク未着用ならびに着用拒否が「犯罪」となってしまうため、逮捕、罰金が発生します。
これが何を意味するのでしょうか。
身体的ハンデを持つ方が軒並み逮捕される。
ご存知の通り、つらい持病を抱えマスクが着用できない方たちが多くいます。
そういった方々は持病の関係でマスクができないわけですが、刑法上の義務としてしまった場合、
持病で付けられないにも関わらず、マスクを着けていないことが「犯罪」ですから逮捕せざるを得ないわけです。
刑法上の義務とできない理由がお分かり頂けたでしょうか?
従って、民法上の取り扱いとすることしかできないのです。
じゃあなんで今マスク着用義務じゃないの?
ここまでの説明で航空会社は「マスク着用義務」とできることが分かりました。
しかし、今、世の中のエアラインはあえて「お願い」という表現をしています。
これはなぜか。
民法は訴えられることで刑事的処罰が発生します。
一日当たり数千人が利用する航空では一日に数千人と運送契約を結んでいますが、厳しく義務とした場合、
マスクを着用しないお客さん一人ひとりに訴訟を起こす必要があります。そうでなければ民法上の義務が成り立たなくなります。
もう想像できると思いますが、民間運営の航空会社にとって、それは極めて無理な対応と言えます。
はき違えてはいけない。
ですからはき違えてはいけないのが、航空会社としては民法上の義務において、マスク未着用を訴えることはできます。
マスク未着用による便の遅延損害、その影響による風評被害など影響は考えればいくらでも出てきます。
ただし、それは双方にとってよい結果を生みません。
だから、厳しく義務とせず「お願い」という形にしているのであって、良い気になって好き放題にしていいという訳ではなく、あくまで航空会社が総合的に判断して訴えを起こしていないだけ、の話です。
航空会社の訴訟は50万円だの500万円だのそんな軽いものでは済みません。
下はAIRDOが機内にて「爆弾を所持している」と発言した旅客に対する損害賠償請求ですが、最終的に1200万円の和解金となっています。個人に対してこの金額の支払い命令は個人の人生を大きく変えてしまう可能性があります。
こんな訴訟が毎日毎日行われている状況など、それこそ残酷な世界だと思いませんか?
結論:お互いが寄り添いあった安全で快適な空の旅を
飛行機という乗り物は物理的にも法律的にも非常に特殊な公共交通手段です。
このコロナの影響下では航空会社にとっても、お客さんにとっても特別な対応が求められます。
私は決してマスク着用を義務とすべきという立場ではありません。それこそ身体的に特別な配慮が求められる方にはしっかりとした対応がされるべきです。
一方で、配慮が必要な方が一方的に権利を主張するような状況は間違っていると思います。非常にセンシティブな問題であると思いますが、それでも、飛行機を利用する場合にはお互いが寄り添っていかなければいけないということを双方が認識するべきです。
冒頭にも述べましたが、私は法律家ではありませんので、間違っている可能性もあると思います。
ですが、お伝えしたいのは何よりも「安全第一」ということ
JL123便の事故がその悲惨さを伝えているように航空機の墜落や死傷事故は決して起きてはいけません。
そのためには乗客と航空会社が安全のために協力しあって、不安全に取り除いていかなくてはいけない。
そのことを何よりもお伝えしたい。
コロナという誰もが予想しえなかった、このパンデミックだからこそ、
より一層「安全」に注力し、そのために必要な処置は断固として実施していく。その理解が国民全体にされていくことが、これからも航空会社が生き残るために必要だと思います。